投稿日:2008-07-09 Wed
生体解剖―九州大学医学部事件 (中公文庫 M 168-2) (1982/01) 上坂 冬子 商品詳細を見る |
本書は、戦時中に九州大学医学部で起ったB-29搭乗員を生きたまま解剖したという事件についての話である。
なんともショッキングなテーマである。
題名が「生体実験」ではなく「生体解剖」というところが異様な事件であったことを物語る。
筆者は関係者に取材を試みるが、「触れられたくない事件」に関係者の口は重いが・・・
戦犯裁判記録と関係者の証言から徐々にこの事件が明らかになってくる。
撃墜されたB-29から脱出し日本軍に収容されていた搭乗員のうち8名が九州大学医学部に送られた。
そこで「実験」が行われたと一般には噂されていた事件だが・・・・
その内容は克明に記載されていて、医学の知識がない私でも読んでいて気分が悪くなるほどである。
筆者も、この部分に関しては一切の引用を認めないと但し書きするほどの内容である。
「実験」なら、その記録が残り、何らかの成果もあるはずだが、その記録はない。
ただ、米兵を切り刻んで殺してしまったというだけである。
医学の発展のため寄与したわけでもない。
だから・・・「解剖」なのである。
本書は、単に米兵を解剖して殺してしまったという凄惨な事件を暴露したという単純な話ではないと思う。
これは収容していた米兵を管理する軍の命令だったのか・・・・
戦後、戦犯として収容され、自殺した医学部関係者が首謀者だったのか・・・
この「解剖」に加担した医学部関係者の教授、助教授、助手などの関係は現在でも通じる話である。
非人道的で無意味な「解剖」を実行し、部下に加担を命じる上司に従ってしまう人間の弱さ・・・・
勝手に「軍の命令だろう」と思い込む当時の状況。
米兵の「処置」と、生きたままの献体を得て、臓器見本が手に入るという「一石二鳥」の発想・・・
大学医学部とは本来は何をすべき場所なのか・・・・
「捕虜の処置」ということなら、こういうことに大学医学部が関与すべきではない・・・を口に出せない状況。
こういうことのほうが問題かもしれない。
更には摘出した米兵の肝を食べたという事実無根の「食肉事件」の尾ひれまでついてしまう。
思わせぶりな態度から派生した「身から出た錆」的な事件だが・・・・
なぜ「さもありなん」という事件がでっち上げられてしまったのか・・・
すべて・・・・人間性の問題ではないだろうかという気がする。
周りの状況次第では、まともな人間も流されて非人道的な行動をしてしまうという人間の弱さがわかる好著であると思う。
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